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第49回

ひとSTORY

石原まり さん[チェロ奏者]

石原まり さん[チェロ奏者] 石原まり さん[チェロ奏者]

九州交響楽団所属のチェロ奏者。留学中にヨーロッパにおけるチェロ教員免許も取得。6人兄姉の末っ子。今回は、家族から大きな愛を一身に受けて育った、チェロ奏者の石原まりさんへインタビュー。

生い立ち

1987年群馬県前橋市生まれ。医師である父は日本国中7回の転勤後、出身地である群馬に落ち着く。11歳上の長兄を頭に6人兄姉の三女として育った。子供心にも自慢の?大好きな家族だったが、親よりも兄姉からいろいろなことを学ぶ機会が多かったかもしれない。

音楽一家

母はエリザベト音大ピアノ科卒業。伯母は仏リヨン国立高等音楽院と仏パリ国立高等音楽院(コンセルヴァトワール)へ留学し、帰国後、ピアノの先生として活動。石原家の甥姪にもピアノの指導をした。兄姉は3歳から中学までレッスンを受けたものの、不真面目な?!末っ子は、2年遅れの5歳からスタートし8歳で終了。その後チェロを習っていた兄の影響もあり、ピアノからチェロに転向。縁あって群馬交響楽団首席チェロ奏者レオニード・グルチン氏に師事。先生のパワフルな生き方に共鳴すると共に、氏から19世紀から活躍していたスペインのチェロ奏者パブロ・カザルス等、著名な音楽家の動画を紹介され、音楽の可能性を感じた。現在、姉二人もプロの音楽家で、長姉はピアニスト、次姉はバイオリニスト、そして三兄は楽器職人。兄弟6人中4人が音楽に携わる仕事に就く。また、次姉の夫は、名古屋フィルハーモニー交響楽団の首席打楽器奏者ジョエル・ビードリッツキー氏と、正に音楽一家。

高校時代

群馬大学教育学部附属中学校を経て、群馬県立前橋女子高校入学。勉学と音楽を通して進路を模索する中、「今しか出来ないことをしたい」と、部活動でオーケストラがある点が決定打となり、埼玉県立大宮光陵高校音楽科へ二年次に転校。また、神戸で開催された「第3回 1000人のチェロ・コンサート 2005」に参加。もともと阪神・淡路大震災の復興支援の為スタートしたもので、この年はロストロポーヴィチも指揮者として出演もするなど、世界中のアマチュアからプロのチェリストが分け隔てなく参加し、音楽で人がつながる大きなコンサートであった。高校生の石原にとって、世界のチェリストのレベルの高さ、このコンサートを実現する音楽家のパワーを肌に感じる貴重な機会となった。つい最近もあるチェリストと出会い「1000人のチェロ・コンサートに参加した」という声を聴くなど、貴重なつながりとなる大切な思い出。

ベルギー留学

ベルギーに留学し現地で結婚生活を送っていた長姉の薦めを受け、大野和士率いるベルギーのモネ劇場の来日公演時、首席チェロ奏者 ユストゥス・グリム氏にレッスンを受ける。その時の会話と音で一瞬にして人柄と演奏に魅かれた。その日、「この先生に習えるならベルギーへ行きたい!」と気持ちが固まり、彼がその当時教えていたナミュール高等音楽院(IMEP)への進学を決めた。ベルギー留学は、ゼロからスタートできる魅力と、外国語で生活する好奇心が手伝い、留学に心からワクワクしていた。 その後、試験を突破し、ベルギーの小さな街ナミュールでの生活第一日目から、そこののんびりした穏やかさに「ここでずっとやっていきたい!」と思うほど。言葉や授業に四苦八苦はしたけれど、その分、IMEP(イメップ)の同級生は、校内でも当時珍しかった日本人の留学生に惜しみもなく力を貸してくれた。ベルギー南部は主にフランス語が公用語だが、全単位フランス語で通った分、今でこそ自身の大きな自信につながったと思う。また音楽で気持ちが伝わるのはもちろんだが、その国の、人の価値観、哲学を知るには語学は必須だと感じる。

在学中はベルギー・フランスの各地でソロ、室内楽、オーケストラ活動を行い、またバロック音楽、現代音楽、世界音楽にも力を注いだ。チェロ専攻及び室内楽において学士・修士号優秀賞を受賞。最後の1年間はヨーロッパでのチェロ教員免許(AESS)の研修と並行しながら、月に一度、ドイツのヴィスヴァーデン歌劇場首席チェロ奏者ダニエル・ガイス氏のレッスンを受けに行き、25歳で完全帰国。6年間のベルギー生活を終えた。

九州・福岡へ

2012年帰国。いくつかのアルバイトをしながら日本での常識、仕事への意識、熱意を先輩方からゼロから学ぶ。また演奏活動においては、群馬交響楽団、イルミナートフィルのエキストラ(オーケストラなどの演奏に正メンバーの代理での臨時出演の事)として出演、またコンサート企画、レッスン指導、ユースオーケストラへの参加などしながらプロオーケストラのオーディションを受け続ける。そんな3年間のフリーの時期を経て、2015年に九州交響楽団のオーディションに合格。福岡に引っ越して来た当初は福岡の知り合いはゼロではあったが、「九響を多くの人に知ってもらいたい」と様々な場所へ出かけては「私設九響広報係」を展開。そのとき出来たつながりは今でも広く、また心強く、公私とも応援しあえる仲間に。今後も入団した当時と変わらず、多くの方に出会いながら、また様々なコンサートを通して九響が、クラシック音楽が少しでも多くの人に広まることを望んでいる。

主な音楽活動

群馬交響楽団、イルミナートフィルオーケストラなどで客員演奏として出演。室内楽コンサートの企画、出演。これまでにチェロを山川郁子、大瀧奈々、小貫詠子、L・グルチン、J・グリム、E・シャルドン、S・ワルニエー、D・ガイス、柳田耕治に、室内楽を主にH・ゴン、G・ミエに師事。(敬称略)2014年アジアユースオーケストラ(AYO)アジアツアー参加。2015年小澤征爾音楽塾オペラプロジェクトXV、セイジ・オザワ松本フェスティバル参加。2016-2018年アフィニス夏の音楽祭参加。2017年第34回新進演奏家育成プロジェクトオーケストラ・シリーズ出演。2019年福岡アカデミーオーケストラ第3回定期演奏会出演。

これから

イベントも活発で、今や日本一元気な都市の一つである福岡。その福岡、九州で、クラシック音楽が日本らしい形で共存しながら、山笠のように特別な雰囲気で人が集まり、また参加できるコンサートが増えたら、文化・芸術をもっと生きた身近なものとして触れられるのではないかと空想する。クラシック音楽とあらゆる分野の人達のつながり、様々な才能を持った面白い人達と企画、運営、オリジナル作品を創り上げて発信し、音楽で街そのものを盛り上げられればと。そう思えたのも、音楽に人生をかける人達に九州でたくさん出会えたから。そんな福岡では偶然の出会いから仕事に発展することも増えてきたが、自分の実力をあげていくことはもちろん、今自分がやりたいことは、クラシック音楽への扉を開くコンサートを定期的に企画すること。その一歩として、昨年の夏から30分のミニコンサートとして小編成アンサンブルの響きを楽しむマンスリークラシックセッション(後援 Happy Hill)と、ピアノの魅力と弦楽器とのアンサンブルを楽しむハッピーサタデーモーニングコンサート(主催 弦楽器工房まつもと)のシリーズをスタート。素晴らしい音楽家である仲間と会場のオーナーと、毎回試行錯誤しながらお客様が心ゆくまで楽しんでもらえるイベントを企画してお届けしているので、ぜひ足を運んでいただきたい。

インタビューを終えて

石原まり さんを”太陽のような笑顔を持っている”と表現した人がいた。その笑顔で真面目で優しい人柄が一瞬で相手に伝わっている。また、音を奏でるだけに終わらず、クラシック音楽を広める使命と情熱と発信力を持ち、まっすぐに実行し続けるまりさん。福岡のクラシックを楽しさと共に広めていただける未来を期待します。

2020.2.4掲載